2012年12月31日月曜日

Fujifilm X-E1を使って教会を撮る(How good is Fujifilm X-E1 for low light photography?)

Fujifilm X-E1は本当に高感度に強いか?(Is Fujifilm X-E1 really good for low light photography?)

Fuji X-E1 with XF18-55mm zoom lens
(For the summary in English please see the end of this article.)


なぜミラーレスなのか?

私はフィルム時代からのキャノン・ユーザーですが、重い一眼レフを抱えての旅が苦痛になってきたので、ミラーレスカメラを使おうと考え始めました。
ただし薄暗いロマネスク教会内部の壁画や柱頭彫刻などの細部を、三脚もフラッシュも使えないという条件で撮影することが多いので、たとえミラーレス・カメラといえども、APS-Cサイズで高感度に強いセンサーを備えたボデーと、解像力にすぐれたズームレンズの登場を待ちかねていました。しかしCanonにはそれらしい製品を出す気配が全くないのでしびれを切らしていたところ、11月にFujiflmからX-E1とXF18-55mmのズームレンズがkitで発売になったので、思い切ってCanonの機材を処分しFuji Xシリーズに切り替えることに決めました。

Fuji X-E1と18-55mmの組み合わせの利点
私がFujiのX-E1とXF18-55mmの組み合わせを選んだ理由は、小柄なサイズでありながら発色がすばらしいことと、ISO 6400-12800の高感度でも、パソコン画面上でなら十分使えるだけの画質の写真が、ごく手軽に撮れてしまうところにあります。

私の場合は、スペイン・ロマネスクについてのBlog記事の挿絵として撮る写真がほとんどなので、被写体は動かぬため、暗い環境で焦点合わせのスピードが若干落ちるのは許容範囲です。X-E1は入手してまだ一ヶ月ですが、これまでの経験ではオートフォーカスは予想以上にうまく作動しています。それにいざとなればマニュアルフォーカスに切り替えればいい、という安心感もあります。

スペインでは、カンカン照りのコントラストの強い屋外と、薄暗い教会内部を出たり入ったりしながら写真を撮ることが多いので、ISOその他の設定をひんぱんに変更しますが、X-E1はその点でも使い勝手のよいカメラです。

X-E1とXF18-55mmの使い勝手をテストする(Testing X-E1 in low light)
X-E1の高感度の使い勝手をテストするため、トロントのダウンタウンにある英国国教会大聖堂(Cathedral Church of St. James)を訪ねました。この大聖堂は19世紀後半の新ゴシック様式の教会で、ステンドグラス入りの窓がたくさんあり室内が明るいため、できるだけロマネスク教会の光量に近づけるよう、教会内部の撮影には曇りの日を選びました。

Photo(1) Anglican Cathedral Church of St. James (Toronto)

教会はチャーチ・ストリートと キング・ストリートの交差点に面した、人通りの多い場所にあります。

Photo(2) The church is located at the N.E. corner of Church & King(downtown Toronto)

Photo(3) Sightseeing bus passing the intersection

教会内部(Interior of the church)
カメラの高感度テストに人形などを撮っている例を見かけますが、光量が充分なスタジオ内でISO 25,600の写真が撮れるカメラでも、照明もなく手持ちで暗い教会内を撮るとなれば話が違ってきます。一番気になっていたのは、Fuji X-E1とXF18-55mmズームの組み合わせが、どれだけ実戦で役に立つだろうか、ということでした。結論から先に言えば、「暗い環境でも充分使い物になる」ということです。

Photo(4) View from the Aisle(ISO 6,400, 18mm f4, 1/30, AWB for all)


高感度テスト(High ISO sample photos-all are Jpeg images without post processing)
高感度テストは、教会内で一番暗そうな場所に手持ちのカメラを向けて行いました。なおカメラは初期設定のまま、画像は全てJpegで、トリミング以外の修正は加えておりません。
Photo(5) Church Organ(ISO 6,400,26.5mm f3.2,1/15)

Photo(6) Clock(ISO 6,400,44.4mm f4,1/20)
Photo(7)100% blow up of the clock

Photo(8) Clock(ISO 12,800,44.4mm f4,1/20)
Photo(9)100% blow up of the clock


Photo(10)Clock(ISO 25,600,44.4mm f4,1/30)
Photo(11)100% blow up of the clock

気がついたこと
1)私の腕では手ブレ防止付きの18-55mmズームでも、1/20秒以下ではブレが目立ちやすくなる、ということ。Stabilizationの過信は禁物。
2)ISO 12,800でもBlog用(PC画面での表示)なら使えること。場合によってはISO 25,600も使えそう。
3)露出補正ダイアルが動きやすいこと。クリックストップでもう少し固くならないか。その点は電源スイッチも同じ。バッグから取り出してみたらスイッチが入っていた、ということが何度かあった。
4)別売の純正Gripをつけて使っているが、それでもズームレンズを取り付けたときのホールド感はいまひとつ。別売グリップをつけると重くなるうえ、バッテリーやメモリーの取替えも面倒になる。もともとこの程度のGripならなぜ最初からボディーに組みこまないのか解せない。
5)メモリーカードが取り出しにくい。とくに手がかじかんでいる時には苦労する。バッテリーのドアーは、X100と同じくベースプレート方向に開くよう変更して欲しい。

しかし細かい要望はさておき、途中で設定が変わっているのに気づきあわてることの多かった、じゃじゃ馬のようなFuji X100に手こずらされたあとだけに、余計にX-E1の使い勝手の良さを痛感しています。まだまだ使いこなすにはそうとう時間がかかりそうですが、何と言っても発色がすばらしいし、そのうえX-E1とXF18-55mmのズームレンズの組み合わせは、軽くて使いやすく安心して長旅に持っていけるカメラだという感じがしています。

実は新製品の発売前にスペックを眺めていた段階では、Fuji X-E1と Sony NEX-6のどちらにするか迷っていましたが、X-E1にしようと決めたのは、カナダのあざらしなどを撮っておられる写真家、小原玲氏のBlogに出会ったのがきっかけでした。
http://reiohara.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/x-e1evf-a8f2.html
小原氏のBlogには、写真のあるべき姿やプロ写真家から見たカメラの将来像などについて、日ごろ同氏が考え抜いている内容のエッセンスがつまっており、またFuji Xシリーズの活用法など現役のプロならではの実戦的なアドバイスもあって、楽しく読みながら考えさせられることの多い、内容の充実したBlogです。

(Summary in English)
How good is Fujifilm X-E1 for low light photography?

I've been a Canon user since the film days, but have decided to switch to Fuji X series, because I want to travel light. I take photos mostly for my blog on the Romanesque arts of Spain. I travel to Spain to take pictures of Romanesque monasteries and churches most of the time in very low light environment, no tripod nor flash permitted.

Until recently I've had some reservation for Fuji X series after struggling for months with X100, a charming but temperamental camera. Also lack of zoom lens and diopter adjustment were other reasons I passed the X Pro1.

The arrival of XE-1 and XF18-55mm zoom lens seemed to me almost an ideal solution for achieving what I had always wanted;travel light but capable of taking high resolution photos. The question is ''How good will it work the combination of Fuji X-E1 and 18-55mm zoom in a very low light environment?''

To test it I took the camera to the Anglican Cathedral Church of St. James in downtown Toronto. I chose one sunny day to take photos of the view of the church and streets, while a cloudy day for shooting inside the church under low light environment.
Please see the sample photos above. All images are in Jpeg without any post processing except for cropping. Camera settings remain at default. Camera was hand held with lens stabilizer switched on.

With this test result I'm confident that X-E1 and 18-55mm combination can replace the heavy Canon DSLR in my next trip to Spain.

(Some observations)
X-E1 will be used to take photos mostly of buildings or art works, consequently focusing speed is not a serious issue for me. Although in extremely dark condition sometimes I had to wait for seconds to focus properly, normally X-E1 rarely hunts in low light environment.
1) Shutter speeds slower than 1/20th sometimes caused blurred images. It depends entirely on photographer's skill, but excessive reliance on image stabilization does not seem to be a good idea.
2)Up to ISO 12,800 is acceptable for my use(for on screen view, though not apt for print) and in some cases ISO 25,600 is also usable.
3)Exposure compensation dial rotates too easily. I wish it will have more secure click stops. The power switch also moves too smooth. I found the camera had been switched on when taken it out of the bag.
4)The Fuji made grip is added to the X-E1 body, but it still lacks a comfortable hold to my taste. I wonder why we need to buy an extra grip, first of all, which should have been part of the body from the beginning.

Minor gripes aside, the X-E1 is a huge step forward from X100. For a long time I've not held in my hand a camera like X-E1; a joy to own and a joy to use.





2012年12月19日水曜日

スペイン・ロマネスクの旅(8) アララール山系の聖地と聖ミカエル教会(Sanctuary of Aralar - Church of Saint Michael)

(Map of Spain)

写真(1)山道で出会った馬の親子(Road to the Sanctuary)

写真(3)聖地の道路標識(Road sign of the Sanctuary)

写真(3)聖ミカエル教会遠望(Church of Saint Michael on the hill top)

アララールの聖地(Sanctuary of Aralar)

ナバラ州の首都パンプロナから北西に約30キロ、途中で放し飼いの馬の親子に出会ったりしながら、アララール山系の山道を標高1,200米くらいまで登りつめたところに、「アララールの聖地」または「サン・ミゲルの聖地」として知られる「聖ミカエル教会」があります。

アララール山系(Sierra de Aralar)は、標高1,200-1,400米くらいの山々が、ナバラとバスク地方のギプスコア県にまたがって点在する広い高原地帯で、一部が自然公園に指定されていますが、この地域には太古から人の住んだ形跡があり、大きな石を石室状に組み上げたドルメンが数十個発見されています。ドルメンはおそらく新石器時代から青銅器時代の間に築かれた墳墓であろう、との見方にしたがえば、紀元前数千年の昔から、アララール山系にはドルメンを築くだけの能力を備えた人たちが住んでいたことになります。

スペインで聖地(Santuario)と呼ばれるものの中に、キリスト教が到来する以前に土着信仰の聖地であったと思われる場所がいくつかありますが、アララールの聖地もそのひとつです。子を授かりたい夫婦が聖地に詣でる風習があったらしいことや、昔は教会の中に大きな石があり「その石にすわってミサに参列すると子宝が授かると信じられていた」などの伝承は、巨石信仰の色彩がつよい古来からの聖地を、キリスト教の聖地として取り込んでいった名残りではないか、という気がします。

聖ミカエル教会(Iglesia de San Miguel)

写真(4)教会東面の図(East view)

写真(5)後陣(Apse)

写真(6)プレロマネスク様式の痕跡を残す中央後陣(Central apse)

写真(7)北東面の図(North East view)

聖ミカエル教会(Iglesia de San Miguel)が現在の形を整えたの12世紀半ばですが、すでに9世紀にはプレロマネスク様式の小さな教会が同じ場所に存在したことが、教会周辺の発掘調査から判明しています。ただしこのプレロマネスク教会は10世紀前半のイスラム軍の侵攻により焼失し、11世紀後半にまず後陣と祭壇を含む内陣部分がロマネスク様式で再建されました。なお中央後陣の写真(写真(5)-(6))で黒ずんで見える石積みの箇所が、プレロマネスク様式の古い教会のものとされています。

七宝細工の祭壇画(Altarpiece of Limoges enamelware)

写真(8) 祭壇方向の図(View of the altar)

写真(9)祭壇(Altar)

写真(10)七宝細工の祭壇画 (Altarpiece of Limoges enamelware)

写真(11)祭壇画中央部分の拡大図(Altarpiece close up)

アララールの聖ミカエル教会といえば「七宝細工の祭壇画」をすぐ連想するほど、この縦1米、横巾2米の長方形の祭壇画は有名なものですが、これはフランスのリモージュの工匠たちの手で1175-1185年ころ制作された、という説が有力です。リモージュの七宝細工の起源は12世紀とされているので、比較的に早い時期のリモージュの名作のひとつということになります。中央の聖母とイエス像の部分を拡大した写真(11)からもうかがえる通り、銅板に実に手の込んだ加工がなされているのが分かります。
祭壇画はガラス入りの大きな額縁状のケースに納められ、祭壇のうしろに安置してありますが、私たちが教会を拝観したときは、ほかに人影もなくまた出入りも自由だったので、1970年代末に起きたという盗難事件の再発などがなければよいが、と祈るような気持ちになりました。

作品の質の高さから判断して、ナバラ王家の寄進になるものではないかという説もあるほど、本来なら大聖堂に寄進されてもおかしくないほど立派な七宝細工の祭壇画が、なぜ人里はなれた山中の教会の所蔵になっているのか、謎の部分があります。
しかし逆に見れば、古来の地場の聖地に建てられた聖ミカエル教会は、単なる田舎の一教会ではなく、むしろ11-12世紀のカトリック教会にとっては、ナバラからバスク地方にかけての布教戦略上、たいへん重要な拠点のひとつだったのではないか、とも考えられます。

ひとつのヒントは、聖ミカエル教会がロマネスク様式で再建された11世紀末に、パンプロナ司教の指導のもとにサン・ミゲル(聖ミカエル)信心会の組織作りが始まっていることです。この信心会(Cofradía de San Miguel)は、最盛期には会員4万人に達したと言われ、現在も存続しています。
サンティアゴ巡礼や十字軍運動が熱病のようにヨーロッパ全体をおおった時代に、信心会に加盟する信徒が急増するのは不思議ではありません。しかしスペインの中でもキリスト教の浸透が遅れたバスク地方とそれに隣接するナバラ地方の一部の信徒は、まだ内心では巨石信仰など土着信仰の名残りを引きずっていたと考えるのが自然ではないでしょうか。そういう信徒のキリスト教信仰を確かなものとするためにも、古来の聖地に聖ミカエル教会を建て、土着の信仰を取り込みながら、サン・ミゲル信心会の形で民衆の宗教エネルギーを教会に吸収していく必要があったのではないか。そしてナバラ王権もそれに賛同し、聖ミカエル教会にいろいろ寄進をしたのではないか。私はそんな風に推測しています。

聖地の風景

写真(12) 聖地から眺めたアララール山系(Aralar mountains)

写真(13) 教会周辺の風景(View from the Sanctuary)

写真(12)の右手前に見えるのが中央後陣、その奥の建物は教会に隣接する宿泊施設ですが、夏にはこの聖地に信徒が泊りがけで集うそうです。
聖ミカエル教会は20世紀後半の修復工事で相当手が加えられているため、建物自体の歴史的価値はいまひとつのようですが、七宝細工の祭壇画の見事さと、そして聖地の澄み切った空気が、訪れる者を魅きつけてやまない教会です。

(Summary in English)
Sanctuary of Saint Michael of Aralar(Navarra, Spain)

The Romanesque church of Saint Michael (Iglesia de San Miguel) is located on a hill top of the mountains of Aralar, about 30 km north west of Pamplona. The area is also called ''Sanctuary of Aralar'' or ''Sanctuary of Saint Michael''. The mountains of Aralar is also known for the existence of tens of dolmens(megalithic tombs) dating from the Neolithic to Bronze period. It means in this area people lived since hundreds, if not thousands, of years BC, who were capable of stoneworks.

The church is famous for its magnificent altarpiece of Limoges enamelwork made in late 12th century. The current church building was originally constructed during 11th to 12th century with significant repair work done in 1970's. Archaeological excavations have revealed that a pre-Romanesque church already existed since 9th century at the same place which apparently was destroyed by a Muslim incursion in mid 10th century.