2017年6月25日日曜日

スペインロマネスクの旅(13)

Sant Pere de Rodes(サン・ペラ・ダ・ローダス修道院

Monastery of Sant Pere de Rodes

しばらくBlogの更改を怠っていましたが、今回はフランス国境に近いローダス山系にある、サン・ペラ・ダ・ローダス(ローダスの聖ペテロ)修道院をご紹介します。
サン・ペラ(カスティーリャ語読みだと、サン・ペドロ・デ・ローダス)は、プレロマネスク時代にさかのぼる起源を持つ大修道院跡で、2000を超えるカタルーニャのロマネスク聖堂の中でも、とくに幅広い人気のある場所です。
バルセロナ市からは160kmくらい、フランスに向かう高速道路(E-15)を途中まで利用して、そのあとローダス山系の曲がりくねった道路を周囲の景色を楽しみながらゆっくり走っても、およそ2時間半くらいで現地に着きます。
その位置関係については、添付のGoogle Mapをご参照ください。




Photo(1) Road to the Monastery

Photo(2) View of the Monastery from the parking area
駐車場から修道院を眺める図





Photo(3) Closer view of the monastery
修道院全景
サンペラ修道院は、10世紀にその名が史料に登場します。古代ローマの神殿跡に建てられた痕跡があることや、その起源に関しては「7世紀にベネディクト会修道院として始まった」などの伝説もあり、謎の部分を含む長い歴史を持つ修道院ですが、げんざい私たちが目にする建物は10世紀以降のものです。中世には聖地巡礼の重要な目的地のひとつでもありました。
私が初めてこの修道院跡を訪ねたのは25年前のことで、その当時は訪れる人の姿もまばらでした。遠くから修道院を眺めた光景は、黒澤明の「蜘蛛の巣城」の一場面を思わせるものがあり、さらに近くで見ると、教会内にも鐘塔にも廃墟の雰囲気がただよい、凄みを感じさせるほどの迫力がありました。

1990年代の後半に実施された大幅な改修の結果、敷地内にはレストランも開業し、地中海を見下ろす景観に恵まれていることなどから、観光気分の訪問者が増えているのは事実です。しかし、プレロマネスクとロマネスクが混じり合う独特の雰囲気に惹かれ、現地を訪ねるサンペラ修道院の愛好者は今も多く、私も大改修後に何度か足を運んでいます。

教会(Church)

Photo(4) Entrance of the church is located one floor down the stairs 
教会の入り口は、正門左手の石段を下りたところにある。
Photo(5) Female figure(Roman goddess?) carved on marble is hanged on the entrance wall of the church.
大理石の女性半身像
修道院の付属教会は、正門から見て左手の石段を下りた一段低い場所に位置しています。ということは、まずこの位置に最初の礼拝堂(現在の地下礼拝堂)が築かれ、それを土台にロマネスク修道院が上乗せの形で増築されていった、ということでしょう。上の写真にあるとおり、教会入口の壁に大理石の女性半身像が飾ってありますが、礼拝堂が古代ローマ時代のヴィーナス神殿の跡地に建てられた、という見方を裏書きする材料のひとつです。
なお付属教会は、スペインにロマネスクが本格的に導入される以前の10世紀から11世紀初めにかけて、基本的な構造が出来上がったものらしく、記録に残る献堂は1022年となっています。

Photo(6) Inside the church(view of the nave toward the entrance)
教会内部(身廊)から入り口を見た図

Photo(7) Columns & Piers(Some are Roman era material reused)
古代ローマ建築の石材を再利用したと思われる石柱のひとつ

Photo(8) Capital (Corinthian style)
教会内の柱頭彫刻
教会の中を見渡してすぐ目につくのは、トンネル状の石天井を補強する半円形のアーチが、二段構えの石柱で支えられている、という珍しい構造です。石柱のなかには、表面にでこぼこがあったりして磨り減った感じのするものがありますが、これは古代ローマの建材を再活用したものと考えられています。石柱の柱頭彫刻の文様は、プレロマネスクやロマネスク初期の聖堂でよく目にする、植物文が主体です。

地下礼拝堂(Cript)


Photo(9) Cript
地下礼拝堂

教会の祭壇下にあたる位置に、ごく小さな地下礼拝堂の跡があります。朝顔の花の形をした柱が、頭がぶつかりそうな低い天井を支えています。元の礼拝堂を残してその上に新しい教会を建てる、というのは古いロマネスク教会でよく見かけるものです。

回廊(Cloister)

サン・ペラ修道院の回廊は、新旧の二階建てというたいへん珍しい構造になっています。12世紀に新しく回廊を建て直した際、旧回廊を残し二階建てとしたものです。地形の関係でそうしたのでしょうが、ほかではお目にかかったことがありません。


Photo(10) Old(Lower) cloister of 10-11th Century
旧回廊(10世紀末ー11世紀初)

Photos(11) Joint of the old & new cloisters(floor of the new cloister is reinforced by steel beams)
新旧回廊の接合部分の図(鉄骨で新回廊の床を補強)

Photo(12) 12th Century new(upper) cloister reconstructed in 90's(most of the capitals missing)
12世紀の新回廊を復元したもの。柱頭彫刻は散逸して今はない。

Photo(13) 4 remaining capitals.
44の柱頭彫刻のうち、修道院に残っているのは4個のみ。

Photo(14) The best among 4 remaining capitals(Monks)
今も修道院に残る4個の柱頭彫刻の中で秀作とされているもの(修道士たちの像)
回廊の柱頭彫刻(Capitals of the Cloister)

回廊の柱頭彫刻は、聖書に題材をとったものなど物語性のある優れた作品が多いということですが、何しろ44個の柱頭彫刻のうち40個が散逸し、修道院には4個しか残っていないという状態で、私自身は実物をほとんど見ておりません。
パリのCluny美術館でサン・ペラ修道院回廊の柱頭彫刻を何個か所蔵しているとは聞いていましたが、さいきんCluny美術館を訪ねられたAliceさんが、ご自分のBlogで、「ノアの箱舟の柱頭彫刻(カタルーニャ北部のSant Pere de Rodes修道院旧蔵)を見た」と述べておられたのには驚きました。さっそくClunyのカタログで確かめたら、「2014年ドイツより入手」と付記があり、比較的さいきんの所蔵品のようです。ドイツの個人コレクションから買い取ったものかと思いますが、いつの日かClunyで実物にお目にかかりたいものと願っているしだいです。
AliceさんのBlogはhttp://alice2013.blog.so-net.ne.jp/2017-02-23 
 

サンタ・エレーナ教会(Santa Helena de Rodes Church)

サンタ・エレーナ・ダ・ローダスは、その起源を9世紀に遡る、小さなプレロマネスク様式の教会跡です。修道院近くの駐車場の丘には小さな集落跡があり、もともとはその地域のごく小さな教会だったのでしょうが、修道院に移管されたあと、小さいながらも気品のあるプレロマネスク様式の教会になったようです。ながらく廃墟のままでしたが、近年になってだいぶ修復作業が進んでいます。


Photo(15) 10th Century Santa Helena Church(view from the Monastery)
サンタ・エレーナ教会(修道院から眺めた図)


Photso(16) Santa Helena de Rodes Church(Pre-Romanesque style)
サンタ・エレーナ教会

Horchata de Chufa(オルチャータ・デ・チューファ)

6月初めの暑い日に修道院で半日を過ごしての帰り道、フィゲラス(Figueres)の目抜き通りにあるカフェテリアで、久しぶりに夏の飲み物オルチャータ(Horchata de Chufa)を注文してみました。見かけはカルピスかココナッツミルクにちょっと似ていますが、もっと甘みが強くどろっとした舌触りと若干の粉っぽさが特徴です。ずいぶん砂糖を加えてあるんでしょうが、うんと冷やしたのを一気に飲むと、暑さにほてっているからだのすみずみまで、オルチャータがしみ込んでいくという感じがします。
Chufaは西和辞書には「カヤツリグサの塊茎」とあり、あまり食用のイメージは湧きませんが、バレンシア地方では食用(オルチャータの原料)として、大量に栽培されているそうです。


Photo(17) Horchata de Chufa
オルチャータ




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