2013年9月20日金曜日

Fuji X-E1と Fujinon XF35mm f1.4の組み合わせで、スペイン・ロマネスクを撮る(How good is Fujinon XF35mmf1.4 for low light photography?)



フジノンXF35mm f1.4を使ってカタルーニャ国立美術館を撮る(National Art Museum of Catalonia through the lens of Fujinon XF35mm f1.4)


Photo(1) Fujinon XF35mm f1.4R on X-E1

Photo(2) National Art Museum of Catalonia (MNAC) on Montjuic(1-250,f8,ISO2000)

(All images are of JPEG files as they come out of the camera except for trimmings applied in some cases)写真は全てJPEG撮りだしで、トリミング以外の修整なし。
(For summary in English please see the end of this article.)


カタルーニャ国立美術館(Museu Nacional d'Art de Catalunya, MNAC)
12-13世紀のロマネスク壁画のコレクションで世界的に有名な、カタルーニャ国立美術館(略称MNAC)は、バルセロナ港を見下ろす標高200米たらずの、小高いモンジュイック山(Montjuic)の中腹にあります。現在の建物は、1929年のバルセロナ万博の本館として建てられたパラウ・ナシウナル(Palau Nacional)を、1934年末にカタルーニャ美術館(Museu d'Art de Catalunya)を創設した際に、美術館に衣替えしたものです。

私はバルセロナへ行くたびにMNACを訪ねることにしていますが、2011年に半年がかりで、ロマネスク展示室が改装されたと聞いていたので、今回はその結果を見たかったのと、もうひとつは高感度に強いことで定評のある、FujiX-E1 Fujinon XF35mm f1.4の組み合わせが、MNACのうすぐらい館内で使い物になるのかどうか、その使い勝手を試す狙いがありました。なおMNACの常設展示室では、フラッシュや三脚を使わないかぎり、いくらでも自由に写真を撮らせてくれます。

MNACのロマネスク美術収蔵品の中核をなすものは、文化財の保存とその海外流出を避けるとの名目で、1920年前後の数年間に、カタルーニャ各地の教会から、MNACの前身であるバルセロナ市立美術館に移したものと、民間コレクションの買取りや寄贈品で成り立っているのが、その特徴です。その点がスペイン王室の所蔵品をベースに発足した、プラド美術館などと大きく異なるところです。なお1936年から1939年のスペイン内戦に際しては、戦乱による被害を避けるため、壁画その他をフランスに一時疎開した歴史があります。
そして1990年には近代美術館を統合し、近代絵画、装飾美術、写真などを含む総合美術館に昇格し、名称も''Museu Nacional d'Art de Catalunya(MNAC)'' (カタルーニャ国立美術館)に変更されました。
ただし、運営の実権がカタルーニャ州政府の手にある点を勘案すると、「スペイン国立」ではなく、「カタルーニャ国」立美術館、すなわち実態は「州立美術館」だと思います。政治制度上のカタルーニャは、スペイン国を構成する17の自治州のひとつに過ぎませんが、中世以来の自治の歴史や固有の言語を持つカタルーニャでは、Nacionalという言葉には「カタルーニャ()の」という意味合いが込められているように思います。

Photo(3) Entrance to the Romanesque art section(1-50,f4, ISO2500)

フジノンXF35mm f1.4は、シャープでボケが美しいと評判のレンズですが、美術館で壁画や祭壇板絵などを撮る場合に重要なのは、ISO 2500-3200絞りf1.4-f2など、カメラをlow lightにあわせて設定した状態で、ノイズが目立たず、しかも周辺までしっかり解像した写真が撮れるのかどうか、という点にあります。結論から先に言えば、FujiX-E1 Fujinon XF35mm f1.4の組み合わせは、予想以上に使い勝手のよいものでした。

XF35mmは、発売当初はオートフォーカスが遅いなどの苦情もあったようですが、その後のファームウェアー・アップデートのおかげもあり、使っていて全く気になりませんでした。私のばあいは、オートフォーカスは、スピードより正確さが大事なのですが、その点でもフジノンXF35mm f1.4は、暗い場所でも焦点を合わせやすい、すぐれたレンズだと思います。

祭壇板絵
カタルーニャのロマネスク教会では、祭壇飾りとして、キリストを取り囲む12使徒たちの素朴な板絵がよく使われました。大聖堂の豪華な祭壇飾りにはない、親しみやすさを感じさせるものです。

Photo(4)  Altar panel from a church in la La Seo d'Urgell(mid 12th C.)(1-180,f2,ISO2000)
Photo(5) 100% blow up
これはフランス国境に近い、ラ・セウ・ドゥルジェイの教会の祭壇板絵で、12世紀半ばころの作品です。

ISO2000, f2の写真を100% 拡大しても、すみずみまで画像が乱れず発色がすばらしいのは、X-E1Fujinon XF35mmの組み合わせの強みです。なおホワイト・バランスも焦点合わせも、全てオートに設定してあります。

Photo(6) Altar panel of a chapel in Durro(Boí valley, mid 12th C.)(1-100,f2,ISO2000)
Photo(7) 100% blow up
バルセロナの北西250kmにあるボイ谷は、数多くのロマネスク教会が、12世紀いらの姿を保っているので有名ですが、2000年にユネスコの世界文化遺産に登録され、一躍世界にその名を知られることになりました。ボイ谷はバルセロナから比較的近いスキー場でもあります。
これはドゥロの町外れにある小さな礼拝堂の祭壇板絵(12世紀半ばの作品)です。4世紀のシリアで起きた母子(聖女ジュリエッタと幼子の聖キルク)の殉教の場面を描いたものですが、ふつうはキリスト像または聖母マリア像が位置する円環(マンドルラ)の中に、母子像が描かれています。拷問を受けているのは母親の聖女ジュリエッタ、油の入った鍋で煮られているのが母子です。凄惨な殉教の場面でもコミック風にさらっと描くのが、ロマネスクの特徴で、これがゴシック時代からあとになると、目をそむけたくなるような描写にでくわすことがあります。

Photo(8) Altar panel from a church in Avià(Berguedà, early 13th C.)(1-214,f2,ISO2500)
Photo(9) 100% blow up
バルセロナから北に100キロばかりの、アビア(Avià)町の教会の祭壇板絵です。 前の二つの祭壇板絵よりは数十年あと、13世紀はじめころの作品です。あざやかな色彩と、そして聖母マリアの表情やイエスの手の動きが、繊細な筆致でいきいきと描かれているのが目を引きます。これはイタリア経由でスペインに伝わったと考えられる、華麗なビザンティン美術の影響を受けた作品の一例です。

Photo(10) Altar front of Santa María church in Taüll l(Boi valley, end 12th C.) (1-125,f2, ISO2500)

Photo(11) 100% blow up(the figure of Christ is nailed onto the panel, not carved in relief)
ボイ渓谷タウィ(Taüll)の町には、荘厳のキリスト像で知られるサン・クリメン(Sant Climent)教会と、サンタ・マリア教会の二つのロマネスク教会がありますが、この祭壇前飾りはサンタ・マリア教会のものです。
一枚板の浮き彫りのように見えますが、100%の拡大図をよく見ると、別途彫ったキリスト像を、釘で打ちつけてあるのが分かります。キリストを囲む12使徒についても同様です。何人かで手分けして、作業の効率化を図ったものかと推測します。

後陣壁画
スペインでは、11世紀の半ばころから13世紀の半ばころまでの200年の間に、何千というロマネスク様式の教会が建てられましたが、その教会内部、とくに祭壇周囲(後陣)の壁は、フレスコ描きの壁画で飾られるのが常でした。

Photo(12) Mural of Sant Climent de Taüll church in the apse(Boí valley, dated at 1123)(1-57. f2.5,ISO2000)

Photo(13) 100% blow up of photo(12)
Photo(14) Christ, the Ruler of the World(1-250,f1.4,ISO3200)

これはタウィ(Taüll)のサン・クリメン(Sant Climent)教会の「荘厳のキリスト」と呼ばれる直径4米におよぶ大作で、MNACの展示品の中で最も有名なものです。制作は1123年とされています。
写真(14)ISO3200,f1.4の開放で撮ったものですが、レンズこみ600grたらずのカメラでこれだけちゃんと写るなら、もう重いフルサイズ一眼レフを抱えて旅する必要はない、という気がします。

Photo(15) Mural of Santa María church in Taüll(Boi valley,dated 1123)(1-69, f2.2,ISO3200)

Photo(16) Saint Mary & Jesus, mural in the apse(1-90,f2.2,ISO3200)
サンタ・マリア教会は、サン・クリメン教会と同じく、1123年に献堂式(新しい教会を神に捧げる儀式)がとり行われた、との記録があることから、ふたつの教会の壁画を、同じ画家(または工房)が手がけた公算が大きいと見られます。なおサンタ・マリア教会は、いまも教区の教会として現役です。

Photo(17) Angel Seraphim, mural in the apse of Santa María church in Aneu valley(Pyrenees, early 12th C.) (1-160, f2.5,ISO2500)
ロマネスク室の入り口を示すノボリ( 写真(3) )には、この天使セラフィムの像が刷り込んでありますが、原画はバルセロナの北西250キロのアネウ谷にある、サンタ・マリア教会のものです。若い頃のピカソやダリも、この壁画に目を見張ったのではないか、などと想像します。カタルーニャの壁画の中では早い時期の名作で、12世紀初頭の作品です。

木彫のキリスト・マリア像
12-13世紀ころにカタルーニャで彫られた、十字架上のキリスト像や、幼子イエスを抱くマリア像は、いずれも神々しいというより、むしろ悩める者に手を差し伸べてくれそうな、親しみやすい人として表わされています。Fujinon XF35mmは、そんなイエスやマリアの像を撮るのに、うってつけのレンズだという気がします。

Photo(18) ''Majestat Batlló'' in tunic(1.54m, 12th C.)(1-146,f2, ISO2000)

Photo(19) Majestat(Christ in glory, donated by Enric Battlló)(1-200, f1.4, ISO2000)
これは''マジェスタット・バットリョ''(Majestat Batlló)の名前で知られる、ガウンのような衣をまとった珍しい十字架上のキリスト像です。マジェスタットは「栄光のキリスト」、すなわち死に打ち勝ったキリストを象徴するもので、「バットリョ氏のコレクションになる栄光のキリスト像」というのが呼び名の由来のようです。12世紀の名作のひとつで、MNACの木彫を代表する作品です。
写真(19)は開放で撮ったものですが、Fujinon XF35mmのボケ味のよさは、背景だけにかぎらず、本体の魅力を引き出すのにも使えます。

Photo(20) Christ on the Cross from a church in La Seo de Urgell region(1.87m, dated 1147)(1-400, f1.4, ISO3200)
この等身大の十字架上のキリスト像は、1147年作と記したメモが胴内から出てきたことで、制作年代が確定できる珍しい例です。同じく絞り開放で撮ったものですが、フジノン35mmには、単にシャープなだけでなく、立体感やぬくもりまで感じさせる描写力があり、X-E1と組み合わせると、カメラまかせで手軽にこんな写真が撮れる、というのがFuji Xシリーズの最大の魅力です。

Photo(21) Virgin Mary with Jesus from the church of Santa Coloma in Ger(Cerdaña, Pyrenees, 51.5cm, 2nd half of the 12th C.)(1-350,f2,ISO2000)

Photo(22) Virgin Mary of Ger(profile)(1-250,f1.6, ISO2000)
たくさんのマリア像が展示してある中で、このフランス国境に近いジェル(Ger)のマリア像だけは、ガラスケースの中に納められています。もともとマリアもイエスも、王冠をかぶっていたらしい痕跡が、頭部に見えます。マリア信仰が盛んになった、12世紀の後半の名作です。

Photo(23) Virgin Mary with Jesus(of unknown origin, towards 1200)(1-250,f1.8,ISO2000)
出所不明のマリア像で、13世紀初めころの作品です。彩色は消えかかっていますが、どこか観音様を思わせる、やさしい表情が魅力的です。

キリスト降架
カタルーニャには、キリストを十字架から降ろす場面を描いた、木彫の名作がいくつかありますが、このタウィ谷のサンタ・マリア教会の作品もそのひとつです。2011年の改装で、教会を模した背景にあわせてポーズをとる、ドラマ化した展示に変わりました。

Photo(24) Part of Deposition(from the church of Santa María de Taüll,1.22m, mid 12th)(1-90,f2, ISO2500)

Photo(25) Saint Mary and Nicodemus in the Deposition(1-75,f2, ISO2500)
マリアがキリストの右手を取り、アリマタヤのヨセフがキリストのからだを抱きかかえる、という構成にするため、キリストの右腕を不自然に曲げてあります。従来はキリストが両腕を水平に広げた姿勢で、展示してありました。どちらがいいかは、議論のあるところでしょう。

Photo(26) Saint Mary and Saint Joseph from the church in Erill la Vall(Boi valley, mid 12th C.)(1-114,f2, ISO2500)
イエスの両親、マリアとヨセフの像の出所は、ボイ谷のエリィ・ラ・バイ(Erill la Vall)町のサンタ・エウラリア教会です。実はこれは「キリスト降架」の一部で、本体の十字架を含む部分は、バルセロナの北70キロのビック(Vic)市にある、司教区美術館(Museu Episcopal de Vic)の収蔵品になっています。十字架から降ろされるイエスのそばで、嘆き悲しむマリアとヨセフの姿を刻んだもので、12世紀半ばの名作です

MNACのロマネスク美術品の展示について
ロマネスク美術は、スペインでは、11世紀から13世紀の半ば頃にかけて、修道院や教会を飾るために生まれた宗教美術です。したがって、ロマネスク壁画や彫刻は、美術館ではなく、その作品が生まれた教会におかれるべきだ、という議論があります。

またボイ谷のように、世界文化遺産に登録され、訪れる人が増えれば、MNACに展示してある壁画などに対して返還要求が出るのは、地元の人たちの気持ちとしては、無理からぬところだろうと思います。また最近の話題のひとつに、カタルーニャに隣接するアラゴン州政府が、MNAC収蔵品の壁画(Monasterio de Sijena (Huesca)について返還を求めてきた、という話もあります。

ロマネスクの名作を拝観するため、人里はなれたスペインの修道院や教会を訪ね歩いたこの数年の経験から、「よくぞこれだけのカタルーニャ・ロマネスクの名作を一箇所に集め、ここまで保存してくれた。さもなければ、これらの名品を目にする機会はなかったに違いない」というのが私の本音です。

漆喰ごと壁画をはがしてバルセロナに集中保管する、という1920年前後の文化財保全のありかたには、地元の意向を無視した暴挙、などの批判もあるようですが、しかしもしこれがなければ、多数の壁画が1936-1939年の内戦で消失したり、外国に流出したり、あるいは個人のコレクションになるなど、その多くが、私たちの目に触れない状態となっていたに違いありません。

わずかこの10年間を振り返ってみても、カタルーニャのロマネスク教会で、拝観者に扉を閉ざすケースが増えています。田舎の教会では司祭の数も信者の数も減り、一人の司祭がいくつもの教会を掛け持ちで、週末のミサを執り行う現状では、盗難や破損をおそれて、ふだんは教会の扉に鍵をかけておくしかないのでしょう。

観光客の多いボイ谷の教会ですら、カタルーニャ政府による経費節減策のあおりで、教会の管理者を減らさざるを得なくなり、常時公開できる教会の数が削減される、という記事を目にしました。文化財保護策が教会の扉を閉ざす結果に終わるのは、ほんとうに困ったものです。

そのいっぽうで、30人ぐらいの小学校の生徒たちがMNACの床に座り込み、先生の説明に真剣に耳を傾ける姿を見かけたときは、「バルセロナの子供たちは、本物を目にして育つ、いい環境に恵まれているな」といささかうらやましい思いをしたものでした。

(Summary in English)

National Art Museum of Catalonia(MNAC) through the lens of Fujinon 35mmf1.4.

(How good is Fuji X-E1 & Fujinon 35mmf1.4 combination in low light? )


This article is about my experience of visiting Romanesque rooms of MNAC, my favorite place in Barcelona, carrying a Fujinon 35mm f1.4 lens mounted on a Fuji X-E1 camera body.


MNAC, known world wide for its excellent collection of Romanesque art of Catalonia, is located on Montjuic hill near the port of Barcelona. Its history starts in late 19th century as a municipal museum housing the art work of  middle ages of Catalonia.

In late 1934 the Art Museum of Catalonia(MAC) was opened at Palau Nacional,  main building of  EXPO29 of Barcelona.

In 1990 National Art Museum of Catalonia(MNAC) was created merging MAC with Museum of Modern Art.


I spent a day of last May in Romanesque rooms of MNAC taking pictures of altar panels, murals and sculptures. 26 JPEG images are uploaded as they came out of Fuji X-E1. Cropping is applied to some of them but no other processing was done.


Fujinon 35mm f1.4 is a well built sharp lens. The color rendition is also excellent. Mounted on a Fuji X-E1 body, it's an extremely comfortable combination for travel and especially shooting under dim light. For technical review of the lens please see the article of Klaus Schroiff (Photozone)



After travelling for 2 months in Spain carrying 2 bodies of X-E1 with 3 Fujinon lenses(XF18-55 zoom, XF14mm and XF35mm), I don't miss any more Canon 5D+EF24-105 4L combination which seemed to me an ideal travel kit until a few years ago.