スペイン全図(Map of Spain)
写真(1)サンマルコス広場(レオン )の巡礼像(Statue of a pilgrim, Plaza San Marcos, León)
(For summary
in English please see the end of this article)
サアグン(Sahagún)
写真(2)サン・ロレンソ教会・南面(San Lorenzo
church of Sahagún-South view)
カスティーリャ平原の見渡すかぎりの麦畑を眺めながら、ブルゴスから西に高速道路を一時間ばかり走ったところに、サアグン(Sahagún)の町があります。人口3千人足らずの小さな町ですが、フランス国境からサンティアゴ・デ・コンポステラまで、約800キロの巡礼路のちょうど真ん中という、地の利に恵まれたこともあり、サンテイァゴ巡礼最盛期の11-13世紀には、大いに栄えた歴史を持つ町です。
サアグンのサン・ロレンソ教会(San
Lorenzo church of Sahagún)
サン・ロレンソ教会は、13世紀の初めころ、レンガ造りのムデハル様式で建てられたもので、これをロマネスク教会と見なすのは異論のあるところでしょうが、初期ムデハル様式を「レンガ造りのロマネスク」と呼ぶこともあるので、あえて『ロマネスクの旅』に加えました。
ムデハル(mudejar)は、中世のキリスト教社会に住みついたイスラム教徒を指す言葉ですが、彼らの多くは熟練の手工業者で、またレンガ積みの名手でもありました。そんなことから、12世紀に生まれ16世紀ころまで続いた、ロマネスク、ゴシック、イスラムの様式が混じりあう、スペイン独特のムデハル様式発展の担い手になりました。ムデハルは、良質の石材がなかった、カスティーリャ地方で生まれた建築様式です。
写真(3)サン・ロレンソ教会・鐘塔(Bell tower, San Lorenzo church)
写真(4)サン・ロレンソ教会・東面(後陣)(Apse-East view)
写真(5)後陣拡大図(Close view of Apse)
この後陣は、まさしくロマネスクのものです。彫刻などの装飾は一切なく、レンガとモルタルだけで、これだけの美しい姿を生み出したのは、見事と言うしかありません。
なお教会内部は、後代にすっかり改装されてしまったため、いまとなっては、創建当時の姿を思い浮かべることもできない状態です。
サアグン(Sahagún)の町名は、聖ファクンド(San Facundo)に由来するといわれますが、その聖ファクンドの遺骸を聖遺物として所蔵し、カスティーリャ王家とも縁の深かったサン・ベニト修道院は、11-13世紀のスペインで最も裕福な修道院のひとつと言われ、クリュニー会の修道院として隆盛を誇った由緒ある修道院ですが、いまでは廃墟になっています。
レオン(León)
サアグンからさらに西に60キロばかり行くと、県都レオン市に着きます。レオン(León)は、ローマ軍団(Legio)の駐屯地として、ローマ帝国の北西スペイン統治の要所でした。10世紀にはレオン王国の首都ともなった、古い歴史を持つ町です。レオンの地名は、Legioが語源の由で、人口は15万人くらい。
ローマ時代の城壁や、王家の墓所でもあるサン・イシドーロ教会、13世紀のカテドラルなどなど、レオンの名所旧跡は、いずれも街の雰囲気を楽しみながら、ゆっくり散歩しながら訪ねるのに適した距離です。レオン大聖堂の近辺では、サンティアゴ巡礼者の姿もよく見かけました。
写真(6) ) 13世紀のレオン大聖堂(13th C. Cathedral of León)
写真(7) レオン大聖堂の内部( Interior of the Cathedral)
写真(8) 巡礼者たち(Pilgrims)
写真(9)巡礼者(Pilgrims)
写真(10)ローマ時代の城壁(Wall of Roman Empire era)
写真(11) サン・イシドーロ教会遠望(View of
the church of San Isidoro)
レオンのサン・イシドーロ教会(Church of San Isidoro, León)
ローマ時代の城壁に沿って立つサン・イシドーロ教会は、レオン王国の礼拝堂ならびに王廟として、11世紀に当時のレオン国王夫妻(Fernando-I世と Sancha王妃)の手で建てられたものです。
聖イシドーロ(San Isidoro)は、西ゴート王国時代の6世紀から7世紀にかけてセビリャ大司教をつとめ、のちに教父とされた聖人ですが、レオン国王夫妻が、1063年にその遺骸をセビリャからレオンに移し、新しく建てたロマネスク様式の礼拝堂兼王廟に聖遺物として納め、サン・イシドーロ教会を創建したものです。
ただし現在「サン・イシドーロ教会」と呼ばれているのは、旧教会が手狭になったため、12世紀に建て増しされたもので、旧教会(王廟)と区別するため、「新教会」と呼ぶことがあります。
私たちが2011年5月にレオンを訪ねたときには、教会南側の入り口周辺で改修工事が行われており、教会の一部は工事用の塀で囲まれていました。
写真(12) 修復工事中のサン・イシドーロ教会南面(South
view of the church)
写真(13)神の子羊の門(南正面入り口)(Entrance
of Lam of God, main entrance)
教会の正面入り口は「神の子羊の門」と呼ばれます。
写真(14) サン・イシドーロ像(Figure of San
Isidoro at the left of tympanum)
南正面扉の左上の壁に、司教杖を手にして立つ、サン・イシドーロの像が掛っています。
タンパン
写真(15) タンパン(神の子羊の門)(Tympanum-Door of the Lam
写真(16) タンパン(神の子羊の門)拡大図(Tympanum-Door of the Lam, Close-up)
タンパンの図柄は、光輪に囲まれたキリストを表す神の子羊を、二人の天使が支えている図が上部に刻まれ、その下にはイサクの犠牲(旧約聖書、創世記第22章)の場面が刻まれています。図柄は、剣を振り上げたアブラハムに、その左から大きな神の手が差し伸べられているところ。また左にはイサクの身代わりとして、いけにえにされる雄羊が見えます。象牙彫りを思わせるような仕上がりです。
教会内部
教会内部は、骨格はロマネスクですが、その後の改装により、後陣(祭壇のあたり)はゴシック様式、祭壇画はルネサンス様式になっています。
写真(17) 教会内(祭壇方向)(Interior-view towards altar)
柱頭彫刻
教会内の高い柱に彫り付けられた、12世紀のロマネスク柱頭彫刻が、見どころのひとつです。人物などにはいまにも動き出しそうな、生き生きとした表現が見られ、名工の手になることをうかがわせる作品です。
写真(18)植物文様(Vegetable pattern)
写真(19) キリストと天使(Christ & angels)
写真(20)ライオンにまたがる男(Man riding lions)
写真(21)蔦にからめとられた男と鳥(Man and bird struggling with ivy branches)
写真(22) 贖罪の門(Door of Forgiveness)
改修工事中の「贖罪の門」は、巡礼者のための入り口でした。板塀越しに撮ったこの写真ではよく見えませんが、タンパンには、キリスト十字架降架の場面が彫り込んであります。
写真(23)風見鶏のある鐘楼(Torre de Gallo)
塔の頂に風見鶏がちょこんと乗っている鐘楼は、壁の一部にロマネスク様式が残っているだけで、実は後世の建築です。しかし、その鐘には1086年の銘があり、ヨーロッパでもっとも古い鐘といわれます。鐘楼の手前右側に見えるのが、旧教会(レオン・カスティーリャ王家の霊廟)の壁です。
王廟内部の天井や壁は見事な壁画で飾られていて、これがサン・イシドーロ教会の一番の見どころなのですが、あいにく撮影禁止のため、写真を掲載することができません。
(補足説明)
San Isidoro(サン・イシドーロ)日本語表記について:
私のBlog記事では、スペイン語の地名や人名の日本語表記に際しては、原則として長音表記を使わないことで統一しています。
(例) バルセロナ、タラゴナ、アストゥリアス、セビリャ、マリア、サンティアゴ。
ただし、San Isidoroをサン・イシド-- ロと長音表記してあるのは、San Isidro(サン・イシドロ)という、12世紀の聖人(マドリッドの守護聖人)との区別を明確にするためです。なおこの二人の名前は、スペイン語でも発音が異なります。
(Equipment
used: Canon 50D + EFS15-85mm f3.6-5.6 IS)
(Summary in English)
''Romanesque churches on the Way of St.
James''(From Sahagún to León)
(Sahagún)
Driving the highway
A231 from Burgos to the west for about 1 hour we will arrive at
Sahagún, a town
with 3,000 population. Sahagún is at the mid way of the Camino de Santiago(St. James
Way). During the height of the pilgrimage to Santiago de Compostela of 11-13 centuries,
Sahagún attracted huge crowd of pilgrims, merchants, craftsmen etc.
The 13th century
church of San Lorenzo is one of typical Mudejar buildings made of brick and mortar.
Mudejar is a unique
Spanish architectural design which is a mixture of Romanesque, Gothic and Islamic
tradition and was popular during 12-16 centuries, especially in central Spain where
good quality stone was scarce for church building.
(León)
Town name of León
derives from the latin Legio(division of Roman
army). It was a strategically important town to govern the north west of Iberia.
Later in the early 10th century the Kingdom of Asturias moved its capital to León
starting the kingdom of León.
There are quite
number of historically important monuments, such as Roman walls, Cathedral, Romanesque
church of San Isidoro etc. The size of the city(150,000 of population) is adequate for tourists who want to
visit these monuments on foot.
León is also one
of the popular stop over places for pilgrims to Santiago de Compostela.
The Romanesque
church of San Isidoro was constructed on the site of Roman temple in the 11th century
by the king of León, Fernando-I and his wife Sancha bringing the relics of Saint
Isidoro from Sevilla in 1063. The church was designed also to serve as a mausoleum
for the kingdom. The church was expanded following the Romanesque tradition during
12 century in a form more or less as we see now except for the apse which was reconstructed
later in Gothic.
Excellent tympanum
on the south main entrance called ''Entrance of Lam of God'' is decorated by carvings
of Lam of God and the Sacrifice of Isaac.
Various capitals
found at the top of columns inside the church are also master pieces of 12th century
Romanesque art.
The old church
of 11th century, mausoleum of León-Castile kingdom, is decorated by extraordinary
Romanesque wall painting. However, due to prohibition of photo taking
it is impossible
to show the beauty of the wall painting.