2018年11月30日金曜日

スペインロマネスクの旅(17)サバソナの聖フェリクス礼拝堂(Sant Feliu de Savassona)


サバソーナの聖フェリクス礼拝堂
(Sant Feliu de Savassona, 10th century hilltop chapel)
(For summary in English please see the end of this article)

バルセロナ市から北東に車で1時間くらい走ると、幹線道路をはずれた岩山の頂上に、プレロマネスクの名残をとどめる、小さな礼拝堂が見えてきます。

Ermita de Sant Feliu de Savassona(サバソーナ村の聖フェリクス礼拝堂)は、10世紀にプレロマネスク様式で建てられたもので、その後の改修でファサードなどは16世紀の様式になってしまいましたが、写真(9)の角ばった後陣などは、プレロマネスクの姿を残しています。Ermitaは、「人里はなれた礼拝堂」「隠者の庵」などを指すので、もともとは堂守か隠者が
住み着き、しだいに村人が週末の礼拝に訪れるようになったものでしょう。


(1)Hilltop chapel(10th century pre-Romanesque origin) 





岩山の標高は660mとなっていますが、元々ふもとがすでに海抜500mを越えているため、
150mくらいの岩山ということになります。
ふもと一帯が自然公園になっていて、頂上への道はまずまずのハイキング道路なんですが、とちゅう一ヶ所だけ山肌にへばりつくようにして越えていく場所があり(写真(3)、つかまるものが何もなく、うっかり足をすべらせると右側はガケなので、ひやりとさせられました。

 (2)Trail to the hilltop

 (3)Slippery pass


岩盤にちょこんと乗ったかわいらしい礼拝堂ですが、村の人たちが手作りで石を積み上げたという感じで、まったく装飾らしきものが見あたりません。ファサードは16世紀の改修で鐘楼が付け加わったりして、すっかり姿を変えてしまいましたが、うらに回ると、プレロマネスク様式に見られる四角な後陣を持つ教会であることが分かります(写真(9)。


 (4)NW view of the chapel(built on the rock)


いまは教会として機能していないので、いつも閉めたままになっているんでしょうが、正面入り口の目の高さに、中をのぞけるように小窓が刻んであります。
スペインで田舎の教会を訪ねていつも困るのは、週末のミサの時いがいには中を拝観できない教会がほとんどなので、こうやって小窓を設けてくれる配慮はありがたいですね。

 (5)Facade(with a little window on the door to see inside)


1962年に大改装をして、内装を含め現在の姿になったそうですが、礼拝堂の中は特に
目に付くものも見あたらず、やはりこの礼拝堂の見どころは、まわりを自然公園に囲まれた立地のよさと、古代からの歴史が刻み込まれた岩山、そしてプレロマネスク風の後陣かな、という気がします。

 (6)Interior(view through the little window)


(7)South view


 もともとは、この南扉が教会への入り口だったようです。

 (8)South door(original entrance)


もう10何年も前の話ですが、スペインのロマネスク教会を訪ね歩き始めたころ、後陣はみんな半円形に張り出すものだとばかり思いこんでいて、あるプレ・ロマネスク教会を訪れたら、その後陣がまるでスパッと刀で切り落としたような、角ばった形をしているのが印象的でした。

 *(9)Apse(pre-Romanesque style) - Photo courtesy of Mr. Alberto Gonzalez Rovira


岩山で水が出ないため、礼拝堂のうしろの岩を掘りぬき、雨水を貯める貯水槽が設けられています。礼拝堂の横には、同じく岩をくりぬいた墓跡もあります。

岩山のまわりは巨石の多い自然公園という地形から見て、礼拝堂はひょっとして古代の聖地跡に建てられたのでは、という気がします。このあたりは、青銅器到来のまえ(紀元前3000年くらい?)から先住民が住んでいた、という話なので、この岩山じたいが巨石信仰の対象だったり、あるいはその頂上が、キリスト教到来以前の「異教」の聖地だったりする可能性はないだろうか、という気がするわけです。
岩山を「聖フェリックスの山」と呼ぶこともあるようですが、礼拝堂が建てられる前は、土地の人は岩山を別の名前で呼んでいた、などというのはときどきある話なんですね。

(10)Rainwater reservoir


(11)Grave behind the chapel


(12)View from the hill top


礼拝堂の名前について
Sant Feliu(サン・フェリウ)はカタルーニャ語読みで、スペイン語(カスティーリャ語)ではSan Félixですが、聖フェリクスは、4世紀はじめにローマの迫害を受け、Gironaで殉教した人です。地元ではSant Feliuet(サン・フェリウエット)と呼ぶこともあるようです。
ということもあり、カタルーニャではSant Feliuの名前をつけた教会や地名(Sant Feliu de Guixolesなど)が目立ちます。


Sant Feliu de Savassona, 10th century hilltop chapel
(Summary of the article)

San Feliu de Savassona(Saint Felix of Savassona) is a tiny chapel located on a rocky hilltop in Catalonia, about an hour drive from Barcelona city. Its origin dates back to the 10th century.
In spite of changes made through the years, such as the facade added in 16th century, the apse shows  clear tradition of pre-Romanesque style.
Among many Romanesque and pre-Romanesque churches I have visited in Spain, this is one of the
memorable ones especially for the beauty of the location.

Wish to express my thanks to Alberto Gonzales Rovira for granting me to use his excellent photo of the apse.


*The photo (9)(of the apse) is the courtesy of Mr. Alberto Gonzalez Rovira.
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ermita_de_Sant_Feliu_de_Savassona-Tavernoles_(2).JPG
http://www.flickr.com/photos/112937297@N06/