2022年1月14日金曜日

スペインロマネスクの旅(20)
サン・ジェニ・デ・フォンテーヌ修道院 
(Saint-Génis-des-Fontaines Abbey)

(For summary in English please see the end of this article)
前々回のBlogで紹介した、フェノラール教会(Saint Martin de Fenollar)から東に10kmほどの距離に、創建8世紀の古い歴史を持つサン・ジェニ・デ・フォンテーヌ修道院がある。正面入り口のリンテル(lintelまぐさ石)に刻まれた浮彫のキリスト像は、初期ロマネスク彫刻を代表する傑作として、ロマネスクの教科書にも登場するほど有名な作品である。

なお修道院教会は19世紀半ばころ地区教会になり、名称もサン・ミッシェル教会に変更されたが、ロマネスク教会としは、旧称のサン・ジェニ・デ・フォンテーヌ修道院を称している。Google MapではSaint Michelと表示されるので、念のため付記しておきます。


写真(1) Church Entrance

Google Map(Cloitre Eglise Saint Michel = Saint-Génis-des-Fontaines Abbey)

      


Lintel(まぐさ石)
ふつう、教会出入口の開口部はアーチ構造になっているが、古い教会のばあい、開口部に長方形の石(Lintel)を架け渡す構造になっているものがある。サン・ジェニ修道院教会ではこのリンテル方式が採用され、そこにキリスト像が刻まれている。

浮彫りの上方に彫り込まれたラテン語の文言によれば、制作年代は1020年ころとなり、年代が判明している石材のロマネスク彫刻のなかでは、もっとも早い時期の作品とされている。なお石材は白い大理石だが、ニスのようなものが塗ってあるため、すこし黄ばんで見えるのだという。

昨年末から、ルション地方の小さなロマネスク教会をいくつか紹介しているが、ルションはロマネスク彫刻誕生の地であり、このリンテルに彫り込まれた浮彫のキリストの姿ほど「およそ芸術様式の初期のものだけが持っている、ういういしい魅力があります」という、林ふじ子氏の言葉を痛感させるものはない。これだけを見るために、遠路はるばる足を運ぶ人がいるのも、むべなるかなと思う。
さらに林氏の表現を借りれば、「ロマネスク彫刻の特色は、建築と深く結びついていることです。一見稚拙で奇異な感じさえするのは、彫刻の形が建築の枠組みにあわせてデフォルメされるためです」(「スペインープレロマネスク紀行」p.26-27林ふじ子(1994皆美社)
なんど見ても見あきることのない、初期ロマネスク彫刻の魅力を解き明かしてくれる言葉である。

現存する教会は、12世紀にロマネスク様式で新しく建てられたものなので、より正確には、キリスト像の刻まれた石(もとは祭壇あたりに飾られていたものかも知れぬ)を、新教会のリンテルとして再活用した、ということであろう。
ともかく、このリンテルが本修道院の最大の見どころである。


写真(2) Facade

写真(3)Lintel

写真(4)Close up of lintel(relief of Majestic Christ in mandorla) 


写真(5)Interior of the church

私たちが訪れた時は、ちょうど週末のミサが終わったところで、司祭にご挨拶をして回廊を拝観することができた。今は拝観料を払えば気軽に教会内に入れるらしい。教会内部は12世紀ころのロマネスク様式を保っているが、祭壇は後世のものである。


回廊(Cloister)
廻廊は13世紀の後半に完成しているが、色違いの大理石の柱を組み合わせるという珍しい趣向で、後期ロマネスク回廊の中でも、特異な雰囲気を有するものであったらしい。
 
サン・ジェニは由緒ある修道院ではあるが、苦難の歴史をたどった。財政的にもあまり恵まれなかったのか、16世紀にはバルセロナ近郊モンセラットの修道院に併合されたりしている。最終的には、フランス革命のあと修道士が追放され、建物は複数の競売者の手に落ち、修道院は終焉を迎えることになる。
そして1850年以降は、サン・ミッシェル教会の名前で、地区教会として存続することになった。

1920年代に回廊が美術商の手でコレクター向けにばら売りされ、柱頭なども散逸してしまったが、それから半世紀ばかりして、サン・ジェニ修道院再建の機運が実を結び、各地に散逸していた柱や柱頭などのうち、回収できたものを活用して
1980年代に回廊の復元工事が実現した。


写真(6) Cloister(13th Century)

写真(7) Cloister(13th Century)



柱頭彫刻(Capital)
柱頭彫刻は、亀などの動物や草木など、身近な主題を取り上げた点で新しい試みは認められるが、後期ロマネスクの作品にしては完成度が低く、修道士の手になるも
のではないか、などの見方もある。
 

写真(8) Capital

写真(9) Capital

Summary in English)

Abbey of Saint-Génis-des-Fontaines

The Abbey of Saint Genis des Fontaines was founded in 8th century and is located about 10 km east of the Saint Martin de Fenollar church which was mentioned in the previous article.

The famous relief of Majestic Christ carved on the lintel is the masterpiece of early Romanesque sculpture. It was made around 1020 judging from the Latin inscription above the relief.
The stone is white marble, but it looks a little brownish due apparently to the varnish coating.

The abbey became a parish church in the mid 19th century, and its name was changed to the Church of Saint-Michel(as shown on the Google Map above). However we continue using the old name of Abbey of Saint-Génis-des-Fontaine as a Romanesque church.

The cloister was completed in the second half of the thirteenth century in a late Romanesque style. It was a unique cloister with marble columns of different colors from various quarries.

Saint-Génis has survived a long history, sometimes with difficulty. In 16th century it was merged with Monastery of Montserrat near Barcelona for survival. The serious problem happened after the French Revolution when the monks were expelled and the property fell into the hands of several auctioneers, thus the monastery was lost.

In the 1920s the cloister was sold off in pieces by art dealers, and unfortunately, the pillars and capitals were scattered. However, about half a century later, the momentum to rebuild the monastery of Saint Genis came to fruition, and in the 1980s the cloister was reconstructed using recovered material.

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