スペインロマネスクの旅(19) Abbey of Saint Mary of Arles-sur-Tech (アルル・シュル・テッシュの聖母修道院教会)
(For summary in English please see the end of this article)前回ご紹介した、サン・マルタン・ド・フノラール教会から西に20kmばかりのところに、Arles-sur-Techという人口2700人くらいの町がある。今はその地区教会になっている聖母修道院教会は、カール大帝が対イスラムのレコンキスタに注力した時代、すなわち8世紀にまでさかのぼる、カタルーニャ最古と称する修道院がその母体である。
1000年を越える修道院の歴史の中で、ある時は改装が行われ、またある時は荒れるがままに放置された結果、いまでは創建時の建物の姿をうかがうことも困難な状態になっている。
しかし、教会入口のタンパンに刻み込まれたキリスト像は、11世紀の作品(この時代ではおそらく初めての人像)であり、「ロマネスク彫刻の芽生えを告げるもの」との高い評価を受けている。このキリスト像を見るためにだけ訪れる人もいるほど、知る人ぞ知る浮彫彫刻である。
写真(1)Christ Pantocrator(relief sculpture)on tympanum
写真(2) Facade of the church
写真(3) Entrance
タンパン(tympanum)のキリスト像図を拡大してみると、福音書の4人の書記者のシンボル鷲(ヨハネ)、牛(ルカ)、獅子(マルコ)、人(マタイ)に囲まれた全能のキリスト、という絵柄であることがよく分かる。しかし「全能」という言葉とはうらはらに、いかにも親しみやすいイエスの顔が刻まれている。この浮彫を「およそ芸術様式の初期のものだけが持っている、ういういしい魅力」と評したのは、『スペインープレロマネスク紀行』(皆美社1994年)の名著を残された、林ふじ子氏である。
写真(4) Christ Pantocrator(relief sculpture)(cloes up)
教会内部
教会の中は三廊構成になっていて、けっこう規模の大きい建物である。ただ写真からもうかがえる通り、何様式ともいい切れない、つぎはぎの建築になっている。
写真(5)View towards the altar
回廊(Cloister)
14世紀の初めころにゴシック様式で改装されたものらしい。カタルーニャにはこの手の端正なゴシック回廊を持つ教会がいくつかあるが、装飾を極力排した細身の円柱には、ロマネスク回廊とは異なる美しさを感じさせるものがある。
写真(6)Gothic Cloister
写真(7)Gothic Cloister
Abbey of Saint Marie of Arles-sur-Tech
Arles-sur-Tech is a town with a population of about 2,700 people, located at 20 km west of the church of Saint-Martin de Fenollard which was introduced last month.
The church of Saint Marie of Arles-sur-Tech was founded in the 9th century as a historic monastery but now it is the town's local church,
During more than 1000 years of the monastery's history, it has been renovated at times and left in disrepair at other times, and as a result, it is now in a state where you will have hard time to catch a glimpse of the original building.
However, the relief sculpture of Christ Pantocrator carved onto the tympanum is probably the first human carving of this period, and it is highly regarded as "the beginning of Romanesque sculpture". It is so well known that some people visit the church only to see it.
The church is quite a large building with three naves based on Romanesque style. However, as you can see from the photos, the architecture is a bit of a patchwork of different styles.
The cloister was remodeled in the Gothic style during the 14th century. There are several churches in Catalonia with Gothic cloisters of this kind. The slender columns with minimal decoration offer a different beauty compared with Romanesque cloisters.
2 件のコメント:
初めまして、emiliaです。写真を見てくださってありがとうございます。
インスタグラムからこちらのブログを知りました。
いくつか共通点があると知ってうれしいです。私もロマネスク美術が好きで、運転はオートマ車で、生まれも育ちも瀬戸内です。
でもスペイン内戦については、カザレスの話を読んだ( https://emiliaromanica.com/2018/06/09 )くらいで、不勉強です。
『二十歳の戦争』を読みます。
Emilia様
インスタグラムは先月始めたばかりですが、Blogもお目にとまりさっそくのコメントをありがとうございました。
The emilia_romanica blogは検索も便利だし各国語版もあり、その上われわれには訪ねる機会のない先まで足をのばしておられるのに、感服しています。大変なかみのつまったBlogなので、少しずつ読ませていただきます。
私はもともと、El Cidなどが活躍した戦国時代のスペイン・ロマネスクの時代史に魅かれたのと、教会の写真をとることに興味があったので、Blogでも宗教美術の視点はすっとばしているところがあります。
「二十歳の戦争」は絶版かと思いますが、都内の図書館の中には蔵書に含めているところがあるようです。著者のDr.Miquel Siguanが90歳になり、70年前の内戦の記憶を孫たちにも伝えたいと、自伝的小説のような形でまとめられたものです。内戦の回想録は、ともすれば読むのがつらくなるような内容になりがちですが、Siguan氏のお人柄のようなさわやかな読後感に魅かれ、つたない翻訳を試みたものです。中原
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